JMACの理念

バイオテクノロジーは、以前より産業化が期待されており、ベンチャーや大企業、様々な企業が新規事業の立ち上げに日々腐心しています。

一方で大企業では、時には新規事業を立ち上げによる将来性の訴求として、時には不採算事業の切り捨てによる利益最大化の訴求として株主への説明に使われ、ベンチャーでも技術の分からない投資家の投機対象として利用されることもあり、純粋にバイオ技術の産業化を目指してきた人々は常に翻弄されてきました。その結果として、1980年代に遺伝子組み換えの実証で生物科学がバイオテクノロジーと呼ばれるようになってから、38年以上を経過した今日でも、食品や医療産業に貢献してはいるものの、残念ながらバイオテクノロジーが産業になっているとは言えない状況です。

バイオテクノロジーを翻弄してきた資本としてのお金は一種のツールです。企業にとっての本当の資本は、本来人であり、技術です。人・技術こそが価値を生み、企業の将来を作り、社会を形成していきます。お金というツールを用い、こうした人や技術という本当の資本による価値創成を継続していかなければ、バイオ産業を作ることはできません。この価値を創成することこそが、企業が新規事業としてバイオテクノロジー分野の研究開発を行う意味と考えることができます。

中長期的な視点に立ち、バイオテクノロジーに関する正しい知識を持つ人を育て、技術を育む企業活動にも不足しているものがあります。第一に企業連携を推進しなければなりません。産業が成熟していないバイオテクノロジー分野では、技術開発から製品化、製造、販売までを1つの企業で賄うことは不可能です。バリューチェーンのそれぞれの事業活動を、価値創造につなげる企業同士のパートナーシップにより、技術や製品に合わせて構築しなければなりません。様々な産業領域の、様々な製品の核となるバイオテクノロジーでは、バリューチェーンのすべての事業活動を1つの会社で立ち上げることは、価値創出に対してあまり意味を持ちません。それぞれの企業の得意とする活動をシームレスに連携させることが必要です。

第二に、国際的な市場のルールを、各国の規制を橋渡しして形成することが必要です。新規事業では、特に特許が重視されます。技術を自分の会社の所有物とする「所有」という概念が、技術開発に投資する企業のマインドと一致するのでしょう。しかし特許制度は、公開を前提に知的財産を占有する権利を与える各国の制度です。日本では1年半で、公開されます。もし発明の内容が価値あるものであれば、競合各社が精力的に周辺特許を提出し、少なくともクロスライセンスを余儀なくされるでしょう。15年経てば特許権が失われます。その先は、どうするのでしょうか?こう考えると特許も中長期的にはオープン戦略なのです。この特許によるビジネス戦略を補うために重要なのは、標準等のルールメイクです。標準化は企業からも参加することが可能です。文書の開発や会議参加等の負担はありますが、いったん成立すれば、国際的な市場のルールを急には変えることは出ません。国際標準は将来に亘って、自社の製品の貿易のためのルールとすることができるのです。企業の製品が市場競争で戦うための土俵を定義し、公正な比較を行うためのルールを形成するという意味で、国際標準化は企業にとって、特許と並び非常に重要なビジネス戦略であると言うことができます。

第三に、バイオテクノロジー分野には、計測のための”ものさし”が不足しています。長さや重さ、科学や電気に関係する産業分野では、”ものさし”としての原器や標準物質を整備して、世界中どこでも同じ基準で評価できるようにする計量計測トレーサビリティを確保することが社会基盤整備として進んでいます。しかし、バイオテクノロジー分野では、このような社会基盤が遅れていて、標準物質の供給や、それを利用するための知識についての教育が不十分な状況が続いています。バイオテクノロジーの発展に伴い開発される新たな計測技術に対応した標準物質を作り、その産業利用を推進することが必要です。これらの施策が技術から価値を生むために決定的に欠けています。しかも1つの企業では賄えないものばかりです。

JMACに要請されている事業は、企業間連携を促進し、国際標準を作り、標準物質を整備し、産業利用することを支援することです。これがJMACが日本の社会の中で存在する意義であり、これこそが理念であると認識しています。

この度、当コンソーシアムは、バイオチップコンソーシアムから、バイオ計測技術コンソーシアムに名称を変えます。このことによって、名実ともバイオテクノロジー分野の幅広い技術を基にした産業化を支援することができるようになると確信いたします。人間の、自らの生命を理解したいという欲求、それに突き動かされて興味を持ち、生命科学を学んだ若い人達が、社会で正しく活動し、価値を生み、バイオ産業を大きくしていくこと、そのためにバイオ計測技術コンソーシアムは活動を続けます。

(2018年10月、2023年10月改訂)

設立趣旨

DNAチップをはじめとするバイオチップは、飛躍的に技術発展を成し遂げ、今日では有用な研究ツールとして、大学等の研究機関や製薬・食品企業等の研究所にて広く利用されるに至っています。しかしながら、精度測定、サンプル前処理、データ解析・判定、試薬管理などの方法および手順の確立をはじめとするバイオチップの標準化がなされていないため、研究利用よりもはるかに大きな市場規模が想定される産業利用が十分になされていません。

一方で、米国ではバイオチップの標準化団体が設立され、業界推奨を示してきており、我が国の産業界もこれらの業界推奨による影響を看過できなくなってきています。

我が国でも、産業界が中心となって、バイオチップの産業化に向けた標準化を検討し、米国をはじめとする国外団体との国際協調を図り、標準化を推進していくことで、バイオチップの市場を創生していけるものと期待しています。

また特許や推奨基準などの勉強会を開催するなど、バイオチップに関する技術や製品、サービスを持つ参加企業が情報を持ち寄って交流し、産業化に向けた課題が導かれ解決されていくことが、バイオチップの産業化を促進していくと考えます。

以上の趣旨の下で、バイオチップの標準化を通じて、バイオチップ関連の産業化促進、および市場創生を行うことを目的として、本コンソーシアムを設立いたします。

2007年7月23日

発起人一同